「鉄の骨」~池井戸潤著、講談社~

【20200321-07-34】同調圧力に弱いのは日本人の国民性なのだろうか。ただ、"談合″の問題をこのような文化論的観点で整理してしまうのはあまりにも短絡的だ。この春にTVドラマ化されるということで10年以上前に出版された本書を読んだ。500ページに及ぶ小説だが、読み始めると止まらず、一気に読んでしまった。公共事業の入札にからんで政・官・民が織りなす人間模様を描いた小説は、その行間に真骨頂があるのではないだろうか。現実社会の必要悪なのか、正義は一体どこにあるのか、その時人はどのような選択を選ぶのか、非常に読み応えのある小説だ。

【読書メモ】
「生きるための談合のはずが、利益のための談合になったとき、それは真の犯罪になる。」(p.228)

「『いまが一番いい。そう思うことが大事なんだ。過去を惜しむのは構わない。だが過去を羨んではいけない。決してな。』」(p.262)

「自分の代わりが務まる人間は、実は、組織には大勢いる。じゃあなぜ彼らが出てこないのか。こたえは簡単。自分がそのポストにいるからだ。いったんそのポストが空いたら、すぐに代わりの、実はもっと優秀な人間が現れる。」(p.263)

「『誰だってそうさ。変化を受け入れるのは恐ろしい。人だけじゃない。会社もそうだし、業界だって同じことだ。いま我々が直面しているのはまさにその変化であって、変化には犠牲が付きものなのさ』」(p.456)

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「一流の組織であり続ける3つの原則」~白井一幸著、アチーブメント出版~

【20200320-07-33】チームスポーツは、企業組織に比べてメンバー共通の目標がわかりやすい。それはゲームに勝つことであり、優勝することだからだ。では、スポーツではない企業において、厳然と明確にその構成員が共有できる目標があるだろうか。おそらくスポーツほど単純にはいかないだろう。そこに個と組織マネジメントの優劣が生まれる。それでも、組織を共通の目標に向かわせ、成果を上げるために、スポーツのコーチングに学ぶところはある。そのことは、「エディー・ジョーンズの言葉」(https://tutuimemo.at.webry.info/201511/article_1.html)でも、数字に裏打ちされた的確なトレーニングと、それを選手たちが受け入れるためのコーチング的アプローチを読んでもわかる。いずれにしても、全員で目標を共有し、一人ひとりが役割と責任を果たすために、正しい方向と正しい方法でひたむきに努力し続ける以外には一流になる道はない。

【読書メモ】
「途方もない目標に直面したとき、反射的に人は否定します。誰もが無意識の思い込みに従うように『そんなことは無理だ・・・』とできない理由を探し始めます。」(p.23)

「指導者にとって必要なのは、選手の身体ではなく心を動かすこと。できなかった選手を頭ごなしに否定せずに励ます。」(p.26)

「コミュニケーションでいちばん大切なのは聞く力です。人が上手に話せるかどうかは上手に聞いてくれるかどうかにかかっています。」(p.52)

「めざすということは、現時点での評価は関係ないわけです。大事なのは何をめざすのかをはっきりと示し、もしかしたらできるかもしれないと思わせることです。」(p.80)

「任せられるかどうかの見極めは非常に難しいです。任せるに値しない人に任せて失敗したら任せた側の責任になるからです。」(p.118)


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「両利きの組織をつくる」~加藤雅則、チャールズ・A・オライリー、ウリケ・シェーデ著、英治出版~

【20200316-07-31】なぜか昔からこの手の本に強く惹かれる。個と組織。個は誰しも持ち味があり個性があり能力もあるが、いったん組織となると、いつの間にかその個が埋没し様々な不調をきたすことがよくある。しかし一方で、ピンチの時に困難を乗り越えて増々強靭になっていく組織もある。この違いは何なのか。本書はまさに、成熟企業(産業)が新興企業から破壊的なイノベーションを受けて衰退の危機に瀕したときに、自ら組織を変革し新たな成長に乗っていくダイナミックな組織の動きを、実例を紹介しながら論理的に説明してくれる。読んでいてワクワク感を感じるのは、現実のイメージが重なって想起されるからだろう。以前、著者の一人である加藤雅則氏の「自分を立てなおす対話」(https://tutuimemo.at.webry.info/201110/article_1.html)を読んだ時も、非常にワクワク感をもって読んだ。この本が個だとすると、今回の「両利きの組織をつくる」は組織だ。この2冊をセットで読むと、今、多くの個人が組織の中で抱えている問題を解決する糸口がつかめるに違いない。

【読書メモ】
「成功してきた組織には、『慣性の力』(Inertia)が働くという運命がある。」(p.16)

「存在目的のために戦略論があり、その戦略を実行するために組織論(何のために、何を、どうやるのか)がある。」(p.21)

「組織能力とは、組織内の人のつながり方、機能の組み合わせによって生まれる、組織の実行力のことである。」(p.22)

「『成功の罠』をいかに抜け出すか。これこそが組織変革の実践における最大のテーマだ。」(p.77)

「慣性の力の正体は、『これまで慣れ親しんだやり方を変えたくない』という、ある種の自己満足の組織カルチャーだ」(p.77)

「経営者や経営幹部が自らの意思を示さず、価値判断を行わないまま、目標数値などの指標だけに頼って組織を運営しているようでは変革など不可能だ。」(p.105)

「変化について、理屈ではわかっていても、感情的に納得できない。だから、行動しない。」(p.159)

「これだけ人材が多様化している中で、職場の責任者である部長が、人・組織のマネジメントに時間を割かないのでは、職場が健全な状態を保つのは困難だろう。」(p.163)

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「臨床とことば」~河合隼雄×鷲田清一著、朝日文庫刊~

【20200315-07-22】「聴く」とはどういうことか。第一線の臨床心理学者と臨床哲学者の対談は非常に示唆に富んでいて面白い。言葉は人と人との距離を決めるものだということをあらためて認識した。「ほんの少しの言い方、態度で二人の人間の距離は近くなったり遠くなったりする。」(p.22)聴く側が、相手の心の奥から滲み出る言葉を待てないということは、臨床の世界でなくても日常の親と子、上司と部下との間でもよくあることだ。そう簡単ではないが、聴くことの重さを理解し相手との距離を健全にとりながらお互いに信頼を築いていくためにも、聴くことの本質を学び続けることが不可欠だ。「聞く技術」(https://tutuimemo.at.webry.info/202001/article_6.html)と合わせて、本書も人事部門だけでなく、部下を持つ管理職にはセットでお薦めだ。

【読書メモ】
「『聴く』ことが『何もしない』ことと感じられるという事実は注目に値する。」(p.14)

「『聴く』という態度で接すると、相手の人の心が自由にはたらきはじめる。」(p.16)

「因果的道筋というところに、皆がコミットする。」(p.73)

「ことばを受け取ってくれたという感触のほうが、主張を受け入れてくれたということよりも意味が大きい。言っていることが認められたということよりも、言ったことばが、たとえ間違っていても、しかしとりあえずそのまま受け入れられた、それがそれとして肯定された、という感触が大切なのだと思う。」(p.192)

「理解できないからといってこの場から立ち去らないこと、それでもなんとか分かろうとすること、その姿勢が理解においてはいちばんたいせつなのだろう。」(p.194)

「聴くということはしかし、とてつもなくむずかしい。語りは語りを求めるひとの前ではこぼれ落ちてこないものだからである。語りはそれをじっくり待つひとの前でかろうじて開かれる。」(p.206)

「語り手の前で、急かすでもなくじっくり待つ、つまりは時を重ねるということがどうしても必要になってくる。が、わたしたちは待つことに焦れて、ついことばを迎えにゆく。『あなたの言いたいのはこういうことじゃないの?』というふうに。」(p.207)

「こうして、とつとつと語り始めたその能動性の芽が摘まれてしまう。ことばを待って受け取るはずの者のその前のめりの聴き方が、やっと出かけたことばを逸らせてしまうのである。」(p.208))

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「2030年の世界地図帳」~落合陽一著、SBCreative刊~

【20200222-11-29】SDGsについての断片的な知識とイメージが、本書を読んで随分整理された。特にその歴史的な背景や、過去と未来、あるいは先進国と開発途上国をつなぐ現在の立脚点など、世界を俯瞰する現在地図を眺めることはとても大切だ。この新しい地図帳を理解していなければ、これから世界中で、あるいは身近に起きる二項対立の価値観は理解できない。SDGsが目指す2030年までの持続可能な開発目標とは、人類の存亡を占う試金石であり、目に見えない未来に対して私たちの混沌とした価値観から活路を見出す羅針盤になるかもしれない。ふんだんに掲載されている「おさえておきたい!世界地図」のページのグラフやランキング数字は、あまり知られていない日本の現状がよくわかる。そうした状況の中で、日本はまだ立ち竦むわけにはいかない。

【読書メモ】

「資本主義経済による『所有』の多寡を競う社会から、人とのシェアという共有型経済における『共感』の広がりを重視する社会へ。これがアメリカン・デジタルが構想する、環境保護と資本主義の相克が乗り越えられた世界の姿のひとつかもしれません。もちろん、この理想に対してギグエコノミーに対する批判など多く存在しますが、理念としてはそのような社会を目指しているといえるのではないでしょうか。その共感性と配分が正しく、滞りなく機能するように、どうやってその理念を共有し、ゴールを設定するか。それが、今の分断された社会における必要な目標設定だともいえますし、分配や共感の考え方を常に意識するようなサービスデザインが今後のITプラットフォームには必要なのかもしれません。デジタル以降の『新しい自然観』のあり方は日々移り変わりつつあります。」(p.250)

「SDGs成立の背景が重要なのは、今後、世界の国家と企業は、ヨーロッパ的な価値観のもと、その活動をヨーロッパ諸国に有利なシナリオのもとに規制されることになるのではないかと考えられるからです。」(p.288)

「多様性を阻害する多様性は認められない(p.331)、多様性を阻害するということは、結果的に多様性も失われていく」(p.332)

「そのブラックボックスから生まれる思いもよらない発想の飛躍が、新しいアイデアの発見やイノベーションにつながる。その非連続性に発酵という現象の可能性を見ています。」(p.339)


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「大事なものは見えにくい」~鷲田清一著、角川ソフィア文庫~

【20200221-11-28】この生きている世の中が全てクリアで、すべてが見通せる世界であれば、哲学など存在しない。本当に見えにくいものとは一体何か?なかなか気づかないけれども、本当に大事なものは何か?そういったことを問い続けることこそ人生の中では大切なことなのかもしれない。本書は、「岐路の前にいる君たちに」(https://tutuimemo.at.webry.info/202001/article_7.html)を書いた著者が、新聞などに寄稿した80編あまりの、時間も掲載された媒体も異なるコラムを集めたものだ。その奥底にある眼差しはじっと一つの方向を見ているようで、本書のタイトルと同じようにとても味わい深い。

【読書メモ】
「哲学はその誕生以来、分かることよりも分からないことを知ることの大切さを教えてきた。分からないけれどこれは大事ということを知ること、そのことが重要なのだと。哲学はその意味で、ものごとの理由を最終的に知りえなくとも『納得』はしたいという欲望のなせる業なのかもしれない。」(p.14)

「いうまでもなう思考は言葉で編まれるが、そのとき言葉は思考形式の手段なのではなく、それじたいがすでにひとつの思考である。言葉が違えば、世界を意味で区分けする仕方、つまりは世界の分節が異なるからだ。」(p.69)

「他者の立場になれるということ、それをおいて道徳の基本はないと思う。」(p.198)

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「背高泡立草」~古川真人著、文藝春秋2020年3月~

【20200202-11-27】第162回芥川賞は、福岡出身の古川真人氏の作品が選ばれた。九州の人ならまだある程度馴染みがあるが、この九州地方のきつい方言で書かれた会話は読みにくくて違和感を感じる人もいるかもしれない。著者の作品を読んだのはこれが初めてだが、文藝春秋の芥川賞選考委員の選評を読むと、この作品は長崎平戸地方の島を舞台にした連作風小説の四作目らしい。市井の家族の他愛無い会話のなかに、唐突に同じ地で起きたと思わせる過去の出来事が幾重にも織り込まれ、本作だけでは全容がまだわからない。今後、この連作が一大スペクタクルに発展するのか。個人的には、北海道のアイヌと思われる人に出会うクジラ漁の刃刺の青年の挿話に一瞬生命の力強さを感じたので、今後を期待したいところだ。

【読書メモ】
「男は鯨組の刃刺のなかでももっとも多く稼ぎ、またもっとも多くの村のひとびとから、その仕事についてまわる危険をかえりみない豪胆な気質によって愛されていたのだった。」(p.372)

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