「マイ・ストーリー」~ミシェル・オバマ著、集英社刊~

【20191201-7-12】アフリカ系アメリカ人初のファーストレディとして、ミシェル・オバマの自伝は実に面白く、その生き方や考え方、人間らしさは多くの読者に感動を与える。しかし、その感動と表裏一体で、アメリカ合衆国という国の政治的複雑さ、込み入った利害関係、多くの偏見と共存する人権主義、多様性な価値観とその光と影といったモザイク社会の苦悩が、まるで舞台裏から眺めているようによくわかる。特にバラク・オバマが大統領選挙に当選するまでの激闘を描いた中盤から、2期8年間のホワイトハウスでの苦闘生活を語る後半、そして任期を終えてドナルド・トランプにバトンを渡す際の憂慮を吐露した終盤にかけて、何も飾らずに心情を吐露していることが共感を呼ぶ。ハーバード大法学院で弁護士資格をとり、一流弁護士事務所で将来の大統領となるバラク・オバマと知り合い、子育てをしながら大統領選を戦い、ファーストレディとして社会に対する自らのミッションを実現しようとする姿は、600ページ近くに及ぶ大著だが、世の中のあらゆる矛盾に直面して苦悩し、途方に暮れている人に是非読んでもらいたいと思う。大いに勇気と元気を得られるに違いない。

【読書メモ】
「何かになることはすべてプロセスの一部であって、長い道のりの中の一歩にすぎない。そこには断固たる姿勢と忍耐が求められる。成長し続けることを決して諦めてはいけないのだ。」(p.570)

IMG_1019.JPG

「子どもたちの階級闘争」~ブレイディみかこ著、みすず書房刊~

【20191110-7-11】ある意味、ブレグジットで揉めているイギリス社会の苦悩の片鱗が垣間見えるドキュメンタリーだ。先に読んだ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(https://tutuimemo.at.webry.info/201909/article_3.html)に続けて是非読みたいと思っていたが、期待にたがわず非常に面白かった。一つには、著者の文章が非常にリズムがあって軽妙洒脱で、悲観的になりがちな状況も明るく笑い飛ばすというような魅力を持っているからだと思う。本書は雑誌の連載をベースにして出版され、2017年の新潮ドキュメント賞を受賞している。日本人の著者が、イギリスに渡って貧困地区の底辺無料託児所に保育士としてヴォランティアで働いていた内容を、そこで預かっている子どもたちや親との出来事を通して、移民問題、貧困問題、人種差別等々のイギリス社会のひずみを赤裸々に綴っている。だが、これらの問題は他人事ではなく、必ずこれからの日本で起こることだ。実際には、幼児虐待などが頻繁にニュースになり始めていて、既に日本社会のあちこちでこの兆候が表れているのではないか。最近、"全世代型社会保障“という言葉が言われ始めているが、政治が何を残し、何を切り捨てるのか。この政策を誤れば、急速に国民から幸福感が奪われかねない。そういった点で、是非、日本人が自分たちのこととして今読むべきドキュメンタリーだと思う。

【読書メモ】
「一般に虐待や養育放棄などの不幸は閉ざされた空間で起きる」(p.29)

「『子どもは社会が育てるもの』という福祉国家的観念が定着していない国から来た人間には、国家が親から子どもを取り上げるというコンセプトはリアルではない。」(p.58)

「政治は議論するものでも、思考するものでもない。それは生きることであり、暮らすことだ。」(p.282)

IMG_0972.JPG

「味の素『残業ゼロ』の改革」~石塚由紀夫著、日経新聞出版社刊~

【20191104-7-10】早くから味の素の働き方改革は世間の注目を浴びていたが、やってみてどうだったのか。本書は、多くの人事担当者の注目を浴びているに違いない。何故、働き方改革による時短を進めなければならないのか。戦後の人口ボーナスと長時間労働で国の繁栄が支えられてきた日本も、これからは経験したことのない労働人口の減少とマイナス成長下で高齢社会を支えていかなかればならない。そういった社会構造や経済環境の変化につれて個人の価値観も変わる中で、社員をこれまでと同じルールや価値観で働かせる企業はいずれ経営が成り立たなくなると考えれば、経営陣が危機感を持たざるを得ない課題であることは明らかだ。ただ、今でも一部の事業所や部門で時短を進めるケースは多いが、本社も営業も研究所も工場も全てにおいて例外なく働き方改革を進めるには、味の素のようにトップの強いコミットメントがないと本当の改革は困難に違いない。

【読書メモ】
「長時間労働の是正や残業削減に社員一人ひとりが目を奪われ、本当に必要な仕事を省いていないか。スピライ的に利益を生み出す仕事を残業削減のために遠のけていないか。」(p.28)

「味の素が掲げる『ゼロベースの働き方改革』は残業ゼロが目的ではない。グローバル市場で戦う高い生産性とイノベーション力を実現するために、残業を分かり易くターゲットに据えただけでもある。」(p.28)

「これから企業は残業を減らしながら、業績を落とさないように生産性向上を併せて実施していかなくてはいけない。長時間労働は、その善し悪しは別として日本型雇用と相互補完関係にあり、残業が日本の経済を支えてきた、ただ社会構造も経済環境も個人の価値観もガラリと変わった。社員をこれまでと同じルールで働かせる企業はいずれ経営が成り立たなくなる。」(p.222)

IMG_1014.JPG

「Think clearly」~ロルフ・ドベリ著、サンマーク出版~

【20191027-7-7】人生をより良く生きるためにはどうすればいいか。永遠のテーマだ。本書でも、"トリセツ”に出てくるのと同じように、人類の生存本能として鍛えられた原始的「脳」が、うまくチューニングできていない現代の「脳」との間に葛藤を生んでいるという考え方がベースにある。偶然とはいえ立て続けにそういった主張を読むと、この考え方は必然的に思えてくる。本書で示された52の「思考の道具箱」は実に自然で共感を覚える。むやみにあくせくした日常からはなれて、少し冷静に自分の人生を考える必要がある。巷のノウハウ本のような「やり方」ではなく、「あり方」を日々考えて過ごすことが人生にとって重要だ。

【読書メモ】
「人生において自分が何を求めているかを知るには、何かを始めてみるのが一番だ」(p.28)

「よい人生の基本的なルールは、本当は必要ないものを排除すること。特にテクノロジーに関しては、このルールがぴたりと当てはまる。新しい電子機器に手を出す前に、まずは脳のスイッチを入れてよく考えてみよう。」(p.80)

「人間は言い訳をすると、失敗から学べなくなる。」(p.204)

「あなたがどこに注意を向けるかで、あなたが幸せを感じるかどうかが決まる。」(p.293)

「だが一万年など、『進化の観点』から見れば、mばたき程度の時間でしかない。私たちの脳はいまだに、『多才』でいることに価値があった石器時代のままだ。」(p.349)

「よい人生を手にするのは決してたやすいことではない。賢いと言われている人たちでさえ、人生でつまずくことは多い。どうしてだろう。人間は、自分たちがつくりあげた世界を、もはやわかっていないからだ。いまや人間の直感は、信頼できるコンパスではない。そして、私たちはこの不透明な世界を、別の世界のためにつくられた脳を駆使して生き抜こうとしている。別の世界とは石器時代である。文明の発展が速すぎたために、脳の進化はそのスピードに適応できていないのだ。」(p.416)

IMG_0989.JPG

「夫のトリセツ」~黒川伊保子著、講談社α新書~

【20191022-7-8】「妻のトリセツ」(https://tutuimemo.at.webry.info/201901/article_3.html)を読んだ時に、「夫のトリセツ」が出ることを想定できなかったのは迂闊だった。お互いの期待を裏切り続ける夫婦の"男性脳”と"女性脳”は、まるでコインの裏表のようだ。脳科学・人工知能の研究者でもある著者が解説する生存本能による男女の感覚の違いには説得力があり、意地を張ったり抵抗したりすることが滑稽に思えてくる。誤解に満ちた、時にストレスフルな妻と夫の関係も、本書をお互いに読んでいれば余分に無駄なエネルギーを使わずに済むと思うのだが、やはりわかっちゃいるけど本能には逆らえないこともあろう。ただ、本書は夫婦間の場合だけでなく、仕事上でも"男性脳”と"女性脳”の違いを理解しておけば、大いに建設的な議論ができて生産性向上に貢献すると思う。

【読書メモ】
「脳は、生存可能性が下がると緊張し(ストレスを感じ)、生存可能性が上がると緊張を解く(ストレスから解放される)。女は、おしゃべりと共感で生存可能性が上がるので、おしゃべりをすればするほど、ストレスから解放される。男は、沈黙と問題解決で生存可能性が上がるので、安寧な沈黙でぼうっとしたとき、ストレスから解放される。」(p.59)

「男性は、結論のわからない話に耐性が低い。」(p.72)

IMG_1005.JPG

「営業部はバカなのか」~北澤孝太郎著、新潮新書~

【20191014-7-6】第5章の”総力戦を戦える組織とは“という見出しに興味をもって読んでみた。経営環境が厳しくなると収益の源泉を生み出す営業部門にプレッシャーがかかる。しかし、そもそも“営業”とは何か?著者はそう言った観点から、営業をロジカルに構造化し、その本質を自身のエピソードと一緒に描き出す。結局、”営業”とはセールス部門の話ではなく、新しい顧客価値を生み出す行為全てを指す。したがって、「営業は、全社で取り組むもの。組織の一人一人の当事者意識こそがその営業行為だ」という著者の終始一貫したメッセージは、企業で働く全ての人に通じる。社員の当事者意識をチェックする20の具体的なポイントは、自分自身が真摯に会社に向き合うための基本だ。

【読書メモ】
「ピーター・ドラッカーは、企業の基本機能は、イノベーションとマーケティングで、それ以外はコストだと言いました。イノベーションとは、新しい価値を創造することで、マーケティングとは、ものが売れる仕組みを創ることです。」(p.14)

「実際に、商品や他人が決めたサービスを、なんの自由もなく人に売るという仕事はとても大変なことです」(p.24)

「個々の営業マンの数字を集約して、目標(ノルマ)とのギャップについて、ああでもないこうでもないなどと議論している暇があったら、マネジャー自らが既存顧客へ足を運んで次の課題を探してくる。このほうが、よっぽど数字に繋がるでしょう。」(p.114)

「企業が生き残ることを考え抜いていけば、全社的な営業活動を体現しないセールス部門はなくなっていきます。」(p.181)

「私たち一人一人が、当事者意識を持って、事に当たる。関わっているものを少しでもよくするために努力し、工夫を重ねる。その一つずつの積み重ねこそが、日本を、また世界をよくしていく。結果として、私たちの人生もまた意味のあるものになっていくのではないかと考えています。」(p.217)

DSC_2262.JPG

「本日は、お日柄もよく」~原田ハマ著、徳間文庫

【20191006-7-5】以前、知人が話していたことをすっかり失念していたのだが、別の知人も本書のことを面白いと言っていたのでとりあえず読んでみた。物語は実に面白く胸が熱くなるシーンも多いのだが、それ以上に"人に何か言葉で何かを伝える”ということの醍醐味を味わうことができる。スピーチによる感動とは、伝える側と伝えられる側が、お互いに心の琴線に触れる何かを共有する瞬間に生まれる。そしてスピーチの内容以上に、伝え方が支配する。キング牧師、オバマ大統領、スティーブ・ジョブズ、彼らのスピーチを目の前で聴いた人たちはどんなに感動しただろうと想像してしまう。加えて、スピーチライターという職業の魅力を存分に知らしめる一冊だ。

【読書メモ】
「スピーチには、ときに世の中の流れを、人々の意識を一瞬で変えてしまう魔力がある。マーティン・ルーサー・キング牧師、ケネディ大統領、スティーブン・ジョブズ・・・演説が世界を変えることは、決して夢などではない。」(p.352)

IMG_0974.JPG