「おじさんはどう生きるか」~松任谷正隆著、中央公論新社刊~

【20210505-8-19】著名人のエッセイはあまり読んだことがないが、著者を通してその相手の著名人のことが気になって読むことはたまにある。作られたイメージの世界でしか知らないことに対してちょっと楽屋裏で普段を垣間見るような、あるいは自分がつくりあげているイメージと現実の落差のところで何か人間の本質があるのではないかといった期待からだ。人間社会の窮屈さは何処にでもあるのだが、少し肩の力を抜いてものの見方ちょっと変えると、こんなにも日常が愉快に思えるものなのだと、本書はそんな気持ちにさせてくれる。ただ、実際はあくまでも著者を通した新たなイメージを受け取るだけで、それが真実であるとは思っていない。

【読書メモ】
「イメージは人が作るものであり、人は限りなく千差万別。気にしだしたらきりがない。だから何も考えないことよ、というのがとりあえずの彼女の結論であるらしい。」(p.169)

「マナーには自由度がある。多少押しつけがましい響きもなくはないが、それでも『ルール』などという響きよりはずっといい。」(p.250)

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「クララとお日さま」~カズオ・イシグロ著、早川書房刊~

【20210504-8-18】ノーベル賞受賞作家だけあって、読み応えのある小説だった。しかも、大作にありがちな中途半端な終わり方ではなく、最後までしっかりと構想が練られ書ききっている。読む前から語り手が人工知能ロボットであることはわかっているのだが、説明に抑制が効いていてそれが読者の想像力を掻き立てる。人間と同じように思考し感じているように書かれているが、物事の認知や思考プロセスが画面分割のように整然と表現されているところは秀逸だ。目に見えるものから、目に見えないもとを想う。人間以上に優しく安定した情緒を持つかのように見える人工知能の将来の可能性が、当の人間にとって揺らぎをもたらし不安を掻き立てる。この心の揺らぎからくる不安は、『わたしを離さないで』(https://tutuimemo.at.webry.info/201711/article_1.html)を読んだ時と同質のものだと思う。様々なテーマがこの小説には埋め込まれているので、単純に語ることはできないが、この連休中にじっくり読むことができてよかった。

【読書メモ】
「利口な子には形が無いように見えたって、形はある。ただ隠しているだけ。ふん、誰が見せてやるもんか」(p.181)

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「恐れのない組織」~エイミー・C・エドモンドソン著、英治出版~

【20210501-8-14】半年前ぐらいに職場で1on1ミーティングの取り組みを始めたときに、参考文献の中にこの"心理的安全性"という言葉が出てきて気になっていた。上意下達、やたら一方通行の指示とやらされ感、活気のない会議、そんなことが起きていても、ある程度やむを得ないことで、やり過ごしていればいずれまた組織に変化もやってくるだろうといった空気が漂う会社はないだろうか。一体何が問題なのか、ある種の組織構造的問題なのだろうか。どうすればもっと活き活きと楽しくしかも生産的に仕事ができる組織になるのだろうか。そんなことをつらつらと考えていた時に本書に出会って非常に共感を覚えた。"心理的安全性"という語感は、不安や恐れを感じさせない組織の雰囲気だとわかる。しかしそれだけではなく、"心理的安全性"は組織において生産的なチームの形成と、メンバーの学習・イノベーション・成長をもたらすための最重要な成功要因であることがよくわかった。リーダーがこの概念を共有し、健全な組織風土づくりに取り組むことが、そこで働く人全てに幸福で充実した人生をもたらすに違いない。

【読書メモ】
「心理的安全性とは、大まかに言えば『みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化』のことだ。」(P.14)

「複雑かつ絶えず変化する環境で活動する組織において、心理的安全性は価値創造の源として絶対に欠かせないものなのである。」(p.15)

「対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境であること。それが心理的安全性だと私は考えている。」(p.30)

「業界環境がどれほど厳しいときでも、リーダーにはどうしてもしなければならない仕事が二つある。一つは、心理的安全性をつくって学習を促進し、回避可能な失敗を避けること。もう一つは、高い基準を設定して人々の意欲を促進し、その基準に到達できるようにすることだ。」(p.48)

「詐欺と隠蔽は、返答として『ノー』も『無理です』も認めないトップダウンの文化でおのずと生まれる副産物である。」(p.104)

「リーダーシップとは、当たり前にはできない行為(率直に話す、賢くリスクをとる、さまざまな意見を受け入れる、きわめてチャレンジングな問題を解決する、など)に、人と組織が真摯に取り組めるようにする力といえる。」(p.186)

「権限を持つと、リーダーは得てして結果と管理のことばかり考えてしまう。そして、部下の不安を知らずにあおってしまい、結果として、試し学ぶ意欲を押さえつけてしまう。」(p.210)

「個人はなかなか変わらない。ただし、組織文化を変えることでそこにいる個人は大きく変わる。それゆえ、心理的安全性は非常に重要なのだ。」(p.285)

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「バースデイ・ストーリーズ」~村上春樹編訳、中公論新社刊~

【20210429-8-17】ひょんな事から知り合いと村上春樹のことについて話していたときに、村上春樹の小説はほとんど読んでいるが、翻訳はほとんど読んだことがないというと、ウィリアム・トレヴァーの「ティモシーの誕生日」という短編が良くて、確か「バースデイ・ストーリーズ」という翻訳短編集に出ているという話を聞いた。日常から時間と空間を切り離して、旅先でウィリアム・トレヴァーの小説を読むことは至福の時間とのこと。きっとそうに違いない。出来るなら自分もそうしてみたいと思いつつ、先ずはネットで探してみると村上春樹翻訳ライブラリーシリーズとして本書が見つかった。12編の短編翻訳の最後に村上春樹の書下ろし短編が1作付いている。期待にたがわず面白くて一気に読んでしまった。どの作品も何とも切なくて、それでいてとても暖かな気持ちに包まれる。いつか、本書を持って目的のない旅に出かけてみたい。

【読書メモ】
「時間はやってきて、時間は去り、それを取り戻すことはできない。私は自分にそう言う。私が手にしているのは、今この目の前にあるものだけなのだ、と私は思いを定める。」(p.29、「ムーア人」ラッセル・バンクス)

「復習を心に抱くとき、そこに公正さの入り込む余地はない。」(p.80、「ティモシーの誕生日」ウィリアム・トレヴァー)

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「もし僕らの言葉がウィスキーであったなら」~村上春樹著、新潮社刊~

【20210425-8-16】鮮やかな異国の地の写真が目に飛び込んでくる。その中に埋もれた旅行記から、ウィスキーの香りが沸き立ち、人生とは一体何なのだろうかとふと立ち止まる。そんな癒しの世界にしばしのあいだ連れて行ってくれる。


【読書メモ】
「レシピとは要するに生き方である。何をとり、何を棄てるかという価値基準のようなものである。何かを棄てないものには、何もとれない。」(p.39)

「ぼくはアイルランドを旅してまわりながら、機会があれば知らない町のパブに入り、入るたびに、それぞれの店の能書きなき『日常的ステートメント』をたっぷりと楽しむことになった。目についた森の中に入っていって、どこかの木の根っこに腰を下ろし、そこにある空気を胸いっぱいに吸い込むようなものだ。(p.96)

「旅行というのはいいものだなと、そういうときにあらためて思う。人の心の中にしか残らない者、だからこそ何よりも貴重なものを、旅は僕らに与えてくれる。そのときは気づかなくても、あとでそれを知ることになるものを。」(p.122)

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「ゼロから学べる ファシリテーション超技術」~園部浩司著、かんき出版~

【20210411-8-10】これまで当たり前のように何となく集まり、何となく始まって、何となく解散している日常の何気ない会議が、コロナ禍で大きくその形を変えた。オンライン会議が頻度を増すにつれて、会議をやっているのだが、何となく胸の途中で何かがつかえたままで終わってしまうことも多々ある。そもそも会議をする必要があるのか?結論は初めから決まっていて、合意形成のアリバイづくりだけじゃないか?そんな玉石混交だった会議の在り方をも、コロナ禍は変えつつある。本物だけが残るとはこういうところにもあるのかもしれない。本書は、ファシリテーターとして活躍する著者が、会議の本来の目的を整理してファシリテーションの本質を初心者にもわかりやすく学べるように解説してありとても実用的だ。繰り返し実践し場数を踏んで社内にファシリテーターが増えれば、多くのビジネスパーソンの貴重な時間を創造的なものに変えていくに違いない。

【読書メモ】

「『時間厳守』『決まる・まとまる』『参加者の納得度が高い』この3つをすべてクリアしなければ『良い会議』とは言えません。」(p.5)

「中立の立場を貫き、部下を信頼して任せる。頭では分かっていても、実行することはできません。でも、勇気をもって部下を信じて任せてみてください。驚くような結果に結びつくかもしれません。」(p.134)

「オンライン会議を円滑に進めるコツは、特別なことではなく『いかにリアルな会議室の条件を再現できるか』にあります。」(p.137)

「アウトプットの善し悪しは、『問い』によって決まることが多いです。つまり、参加者ではなくファシリテーターの問題です。」(p.166)

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『致知』(2021 April)~致知出版社刊~

10年ぶりに3度目の再講読となった。久しぶりに「致知」をしっかりと読んっだが、「致知」は読む者のその時の心の在り様で受ける印象が随分と違う。特に本号は稲盛和夫氏の特集が組まれていて、このコロナ禍での人間としての在り方や働くということの意味、尊さがスッと心の中に沁み込んでくる。今週からフレッシュな新卒新入社員が入社してくるが、「何故、働くのか」「いかに働くのか」ということを先ずは語り合ってみたい。

【読書メモ】
「人を知る者は智なり、自らを知る者は明なり」(『老子』第三十三、p.4)

「『人生・仕事の結果』=『考え方』✕『熱意』✕『能力』」(p.79)

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