「生き方」~稲盛和夫著、サンマーク出版~

【20190831-7-1】読書ノートも7冊目になり、ナンバリングを-7-に更新した。その最初の本が稲盛氏のこの著作だということに何か意味があるのか。本書の終盤は、宇宙の流れとの調和、因果応報論にかなりの紙数が割かれているので、ついそんなことを思ってしまった。当世きっての名経営者の心の在りどころは何処なのか、非常に興味深いものがある。何のために働くのか、何のために経営するのか、人間として何が正しい生き方なのか、それらはすべて”何のために生きるのか”ということに収斂していく。彼が経営の傍ら、これらの問いに対する一つの答えを社会に向けて発信し続けているのも、自ら”何のために”として実践していることそのものに違いない。彼は同じことを繰り返し書き、私たちは同じことを繰り返し読む、そういう機会が与えられている。

【読書メモ】
「この俗なる世界で日々懸命に働くことが何よりも大事なのです。(p.21)

「思うようにならない人生も、実はその人が思った通りになっていると言えます。」(P.39)

「哲学に準じて生きるということは、おのれを律し縛っていくということであり、むしろ苦しみをともなうことが多い。」(P.89)

「欲、すなわち私心を抑えることは利他の心に近づくことです。」(P.154)

「私は、人間が本当に心からの喜びを得られる対象というものは、仕事の中にこそあると思っています。」(P.158)

「短期的にはともかく、長期的にはかならず善因は善果に通じ、悪因は悪果を呼んで、因果のつじつまはしっかりと合うようにできているのです。」(P.216)

「本書のタイトルとして掲げた『生き方』とは、一個の人間としての生き方のみならず、企業や国家、さらには文明あるいは人類全体までも視野に入れています。なぜなら、それらはいずれも一人ひとりの人間の集合体なのだから、そのあるべき『生き方』に何ら差異はないはずだ。私はそう考えているからです。」(P.245)

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「むらさきのスカートの女」~今村夏子著、文藝春秋2019年9月号~

【20190815-6-80】この小説には、日常の中の誰もが持っている゛狂気”(当然、自分の中にもある゛狂気”)、それが一体どこまで突き抜けて行くのか予想がつかない、緊張感がある。分断された社会で、いつのまにか隅々まで広がっている虚ろな関係性がテンポよく描き出されており、最後に思いがけないどんでん返しがあって面白かった。芥川賞受賞作品を文藝春秋で読むのは久しぶりだ。(https://tutuimemo.at.webry.info/200708/article_6.html)昔は文芸雑誌で小説を読むのも苦にならなかったが、最近は何故か雑誌が集中して読めない。そういう点では、お盆の、しかも台風のさ中のシュールなひと時だった。

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「Think CIVILITY」~クリスティーン・ポラス著、東洋経済新報社刊~

【20190811-6-79】゛「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である”と本の帯には書いてあるが、問題意識としては、冒頭に出てくる゛職場で実に無礼な人の言動に本当に悩んでいるんです”というエピソードの方がピンとくる。世の中全体がストレスフルな時代になって、無礼な言動を平気で露にする人が増加しているのは確かだ。無礼な言動と言っても白か黒かはっきりしない幅広さはあるが、重要なのは、その言動を発した本人が本当に相手に対する尊敬や配慮を欠くものだったかどうかではなく、゛された方がどう感じたか”だ、と著者はいう。これはまさしく、ハラスメントと同質だ。本書では、無礼な人がもたらす社会的なロス、礼節を高めるためのメソッド、礼節ある組織になるためのステップ、そして最後に無礼な人に狙われた時の対処方法がまとめられている。人材の採用、育成、問題対処にかかわる人は是非読んでおくべきと思うが、「突き詰めれば、最も重要なのは人間関係である」とあるように、社会における自己の在り方の問題であり、礼節は人間の根本にかかわる資質だと思う。「おわりに」の章で紹介されている、ゴルフプレーヤーのジョーダン・スピースが2015年4月のマスターズで優勝した時のスピーチと、彼の父親がコメントしたエピソードは感動的だ。余談だが、本書の訳者が夏目大という『あなたの人生の意味』(https://tutuimemo.at.webry.info/201902/article_2.html)を訳した方だと知って゛なるほど”と思った。2冊とも大いに共通点がある。

【読書メモ】
「一度侮辱的な発言をされると、された側の人たちの頭にはすぐに否定的な思考が染みついてしまう。」(p.30)

「無礼な態度を軽く見てはいけない。ほんのちょっとした言葉、態度が重大な影響をおよぼすことがある。しかも、特定の個人だけでなく、組織全体に影響がおよぶことも多い。」(p.32)

「多様性が真に価値を持つかどうかは、企業の文化や、その構成員の態度によって決まる。」(p.138)

「謙虚なリーダーに率いられたチームにいる人は、積極的に新しいことを学ぼうとする。」(p.164)

「企業は経営理念やビジョンを言葉で表現するが、それ以外に、社員の基本的な行動規範も明確な言葉にしておく必要がある。」(p.216)

「誰かの行動が無礼かどうかは、あくまで『された側』が決めるのだ。」(p.276)

「突き詰めれば、最も重要なのは人間関係である。そして、礼節は人間関係の基礎となる。他人に対する態度、ふるまいに常に敬意があれば、それは自分自身を前進することにつながるし、キャリアにも必ず良い影響をもたらす。他人と良好な関係を結ぶのに役立ち、人生も良い方向に導くことになる。あなたに礼節があれば、仕事も、仕事を離れた人生も必ずうまくいくはずだ。」(p.310)

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福岡県戦時資料展

終戦の日を前に、アクロス福岡で“福岡県戦時資料展”が開催されていることを知り出かけてみた。今年は、鹿児島県南さつま市の万世特攻平和記念館から借りた特攻隊員の遺品の展示があり、見ているうちに10年以上前に尋ねた万世(https://tutuimemo.at.webry.info/200702/article_10.html)のことを思い出して胸が痛んだ。今年で終戦から数えて74年目だが、当時、特攻作戦で亡くなった10代後半の青年たちの出撃直前の屈託のない表情を見ると時間がそこで止まっている。そして、いつもその不条理さと現代の我々日本人のありようを比べて複雑な思いに駆られる。せめて、今を生きるできるだけ多くの人たちが、この歴史から目を背けずに見つめ続けることが大切だと思う。資料展は8月16日までだが、できるだけ足を運んでみるとよいと思う。

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「ラストワンマイル」~楡周平著、新潮文庫~

【20190810-6-78】ちょっと油断すると、すぐに積読になる。この盆休みにあらかた片づけたいと思い最初に手に取ったのが本書だ。久しぶりにワクワクドキドキ、まるで日曜夜9時からのビジネスドラマを見るような面白さだった。昨今のネットショッピングの隆盛、それにつれてひっ迫する宅配便のドライバー、バーチャルとリアルの融合など、本書が描いた物語が今、世の中で現実に動いている。おなじくらいワクワクしながら読んだビジネス小説として、ふと城山三郎の『官僚たちの夏』(https://tutuimemo.at.webry.info/200707/article_7.html)を思い出した。確かこれを読んだ時もこの暑い季節だった。今回、後半からラストシーンまでがやや粗削りに感じたが、それでも面白過ぎて思わず暑さを忘れるひと時だった。

【読書メモ】
「ラストワンマイルを握る物流業者なくしては、ビジネスは成り立たない。そこを握っている自分たちが実は最も強い立場にいるのだ。そこに気がついたというわけですね」(p.452)

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「ヒーリング・バックペイン」~ジョン・サーノ著、春秋社刊~

【20190714-6-76】本書に出会ったのは僥倖だった。職場にかつての先輩が訪ねてきて雑談で最近腰痛で悩まされているという話をしたときに、先輩曰く「それはバックペインだな、光と思ってもいい」と言って本書を紹介してもらった。先輩も数十年、腰痛に悩まされているが、今はさほどでもないという。それにしてもこれまで全く聞いたこともない話で、まだ半信半疑でもあるが、TMS(「緊張性筋炎症候群」(Tension Myositis Syndome))という概念は、一言でいうと腰痛は構造的な要因ではなく心的な防御反応から身体に痛みを感じさせる脳の動きという理解をした。確かに、慢性的になってきた腰痛で四六時中、どこかで心が痛みに囚われているのは確かだ。そういった点で、現在膠着状態から一歩抜け出る可能性を、先輩は「光」と言ったに違いない。そのことを、今度お会いした時に是非とも確かめてみたい。

【読書メモ】
「TMS(緊張性筋炎症候群:Tension Myositis Syndome)は心の現象によって起きるが、その症状はあくまでも身体に現れる。」(p.ⅵ)

「つまり、人間には心の状態が身体に現れる場合があるということを認識したのである。もしこの事実を見過ごせば、痛みは永遠につづき、身体の機能も奪われることになる。」(p.18)

「これまでの医学は身体という機械に焦点を合わせて診断を下してきたが、本当の問題はその機会を動かしている心に関係していると思われる。」(p.37)

「不安は、人間だけに備わった予期する能力によって生まれる。」(p.47)

「抑圧された不安や怒りなどの感情が脳内で作用しはじめると、自律神経系がある部分の筋肉や神経、腱、靱帯の血流量を減少させ、その結果、その部位の組織に痛みやその他の機能障害が起きる。」(p.76)

「免疫系は、その複雑さと有能性の点で、まさに驚異である。」(p.192)

◆痛みは構造異常ではなくTMSのせいで起こる
◆痛みの直接原因は軽い酸欠状態である
◆TMSは抑圧された感情が引き起こす無害な状態である
◆主犯たる感情は抑圧された怒りである
◆TMSは感情から注意をそらすためだけに存在する
◆背中も腰も正常なので何も恐れることはない
◆それゆえ身体を動かすことは危険ではない
◆よって元のように普通に身体を動かさなくてはいけない
◆痛みを気に病んだり怯えたりしない
◆注意を痛みから感情の問題に移す
◆自分を管理するのは潜在意識ではなく自分自身である
◆常に身体ではなく心に注目して考えなければならない
(p.102)

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「劣化するオッサン社会の処方箋」~山口周著、光文社新書~

【20190723-6-77】副題は、゛なぜ一流は三流に牛耳られるのか“。興味深いのは、経営人材も組織の劣化が不可逆的なエントロピーの増大のプロセスで、時間と共に劣化していく、そのような中で圧倒的な変革者が現れた明治維新と太平洋戦争の間が80年空いており、次の80年が2025年で、その時にもう一度人材の総入れ替えが起きて、次の一流人材が多数現れる可能性があるという点だ。ただ、その狭間で生きている我々の世代も、人生100年時代が避けて通れないのであれば、もっと謙虚に学び続けなければならない。本書は、前作の「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」(https://tutuimemo.at.webry.info/201804/article_2.html)の続編とも言える。今、企業で人材育成にかかわる人は是非読んでおくべき一冊だ。

【読書メモ】
「組織のリーダーは構造的・宿命的に経時劣化する」(p.38)

「劣化したオッサンのもとでこのような忖度を繰り返していれば、やがては先述したとおり、深く考える思考力は麻痺し、道徳観は衰弱し、結果的には自分もまた『劣化したオッサン』になる。」(p.64)

「環境変化に合わせた知識のアップデートを怠るような知的に怠惰な管理職の知識や経験は、すぐに腐って不良資産化します。」(p.123)

「同じような仕事を同じような仲間と同じようなやり方でやり続ける、というのは『経験の多様性』を滅殺させることになります。いろんな仕事を、いろんな人たちと、いろんなやり方でやったという『経験の多様性』が、良質な体験をもたらし、学習を駆動することになるのです。」(p.142)

「さて、この点について考えると、大きな懸念が一点浮かび上がってきます。それは、若年層の中で『本を読まない人』があまりにも多いという事実です。質の高い結晶性知能を構築することは一朝一夕にはできません。青年期から中長期的に良質なインプットを継続することが必要なのですが、良質か悪質かを云々する以前に、そもそも『本を全く読まない』という人がとても多い。」(p.163)

「『チャレンジ』には『時間や能力の集中』という要素が付きものであり、したがって『それまでにやっていたことを一旦止める』ということが必然的に求められます。」(p.172)

「本書では『劣化するオッサン社会の処方箋』をつらつらと述べてきましたが、最もシンプルかつ重要な処方箋は、私たち一人ひとりが、謙虚な気持ちで新しいモノゴトを積極的に学び続ける、ということになると思います。」(p.208)

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